こころのいちばんやはらかいところ

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雨の降らない晩に


ねぇ、夕方に雨が上がって
少し静かになったけど
するとペットボトルで作られた
風見鶏がキィキィ鳴って
錆びが風に愚痴るんだよ

夕べ、路上で喧嘩があって
スウェットの上下の女
きく耳がないのに携帯を耳にあて
水銀灯の下でがなり立てる
何度も何度も夜を叩いて

ああ、居酒屋からの帰り道
路地のエコーに酔いしれて
歌詞を忘れては歌いなおしている
フェイドアウトするまえに
一曲ちゃんと聞かせてね

透明の風見鶏は一筋の風になるの?
あの乱暴な女はいつものことなの?
酔っ払いの歌手は夜通しうたうの?

なんで
誰もあの風見鶏を裏に連れて行かないの?
なんで
あの女を怒らせた男は来ないの?
なんで
あの男に歌詞を教える人は居ないの?

どうして わたしの背中をさするの?


雨の、降らない晩に




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恋愛サプリ


「元気か?」ときかれて
「元気だよ」とこたえる
元気じゃなくても
いま、元気になったから

少しお疲れ気味のサプリ

きみをぜんぶ頬張って
噛み砕いてしまいたい
そしたらわたしになるのにな
そんなこと考えるときもある

少しお疲れ気味のサプリ

「元気か?」ときかれて
「元気だよ」とこたえる
元気じゃなくても
きみ、元気になったかな?




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何かダイジナコト


わたしはさぁ
何かダイジナコトを忘れているような気がする
それが何かを思い出せずに
暮らしのなかで転がって
本を読んだり映画を観たり
ココロを揺さぶったけれど
流した泪は自分にではなく

いくら考えても
それ以上潜れなくて
背中を押すどころか
そっと肩に手を置き
暗に静止を促してる

ここ数日のキオクが無いのは
変わりばえのしない
さっきといまが延々と行進して
使い古した右足と左足がぎくしゃくと
おいっちに、おいっちに、

ため息の代わりに
「しんじゃえ!」ってつぶやくと
こころにもないことを知っていても
今日まで生かしてくれたわたしは
悲しそうに立ち止まる
(手のかかるやつだな)
捨てて置けないのは分かっているから
合図の代わりに舌打ちをした

雨のせいになんかしないさ
身もこころもいびつで
からっぽを拾い食いしては
腹を抱えて笑っている

ダイジナコト、
タイセツナモノ、
方向音痴がまわりみちをして
今、どこかワカンナイ

ちっくしょー!

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たとえば、


陽がレースを透かすときにだけ
やっぱりあのカーテンがいいな
お金は回らないけれど気は回る
少しのあいだでも壁に揺らぐ影
わたしのところに来る物
わたしの瞳を奪うもの

感覚的に生きていくのは
とってもお腹が空くもの
童話の少女たちみたいに
死んでしまったら元も子もないけれど
生きているあいだは満たされる

なにが幸せって、なにが幸せって

五感を超えたその向こうで
生きる背筋が伸びていること


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路上売りのうた


いや、違うんだ
それは売り物じゃない
いや、いいんだ

ぼくの前を往きすぎる靴が
何処に向かうのかとか
何処に帰るのかなんて
今はまったく興味も失せて

ぼくがそこを歩いたころは
彼が視界に入るたびに
胡散臭い一瞥を投げて
空ろな眼に囚われないよう

ぼくだけ時間を止めたくて
も少し眺めていたくて
きみをゴザに座らせて
思い出に尋ねたかっただけ

きみが彼の店先にしゃがみ
手作りの指輪をはめて
嬉しそうに強請った時
そんなおもちゃ止めろよ!と

きみがなぜ欲しがったのか
彼には分かっていても
ぼくには分からなくて
ごめんなさいね、と立ち上がる

きみはその後無口になって
ぼくから逃げるように
鼻歌なんかを口ずさむ
ああ、そう 確かこんな唄

いつしか彼は店をたたみ
何も無かったようにいつもの道

見えるはずの無いゴザのあと
ただ静かに座っていた
彼に見えていたものが
あの時のきみの哀しみだとしたら

あれからぼくは此処に座って
彼の空ろな眼を借りた


いや、違うんだ
それは売り物じゃない
いや、いいんだ



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平ら。


私は紙になろうと思った
だまっていてもお咎めもなく
古くなって端が黄ばんで
捨てられても落ち込むこともなく

私の上に置かれた文字が
私という褥で横になる
暇なときは「埃っぽいね」
愚痴りながらもさして気にもせず

感情の起伏はそこにはなく
読み進めるひとの心を借りて
少しだけ浮き上がる錯覚
そして何もなかったように眠る


他のことは彼らに任せて
平らな紙になろうと思った




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In my life


ベィビーブルー!
風の吹く町
谷を走る気まぐれ
西から東へ

丸いはめ殺し窓
丘の上の家
壁に光のスペクトル
南から北へ

忘れえぬ五月には
少しの泪
それから思い出し笑い
昨日から今日へ

空に翼をあずけて
風になる鳥
人生の渋滞から抜け出し
今日から明日へ

胸の少し上
ここ、ここ、

そう、そこだよ



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火を落とすまえの暖炉に


最初の夜が解き放てず
彼は間違ってはいなく

火を落とすまえの暖炉で
セロハンになった私を握り潰して
    
やに
ときおり脂がはじける音に
怯えたように瞬きするのは
繰り返されても解けない心が
小さくあげる悲鳴のようで

最初の夜が解き放てず
私は間違ってはいなく

火を落とすまえの暖炉に
痩せて枯れた腕を折り火に焼べた


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永遠の車窓


窓に映るは過ぎ往くいま
傍観される確かないま
トンネルの中で浮かび上がる
暗がりを走る眠らぬユメ
すれ違う下りの電車に
加速の錯覚を覚えては
具体に肩を掴まれぬよう
目を閉じてまもり抜いた

無為に写りこんだシルエット
永遠の車窓

通路へだてて窓際のひと
しわくちゃの地図を胸に
予約の無い指定席に腰を下す
三枚越しの互いに気づき
目が合わぬ様に気遣って
投げる窓辺の夢に落ちる
降りる駅が違うのならば
こころの奥まで捜さないで

無常を手で抑えては抜ける風
永遠の車窓

うたかたに揺られゆめみし
永遠の車窓




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シーツ


なかなか寝つけなくて
ため息を洩らしては寝返りを打ち
よれよれになったシーツを邪に撫で
遠く騒がしい夜は
背中を向けて繋ぐ

残念な朝はやってきて
黄ばんだ鉛色の天幕は堪えることなく
じめじめするのは怠惰が棲みつく心で
皆勤賞のカラスは
始終、気兼ねなく

手元に置いた本も直ぐ閉じて
気のない時間がやけに長くて
一年前の自分をもってきては
重なることをひどく拒んだ

カレンダァを斜線にした雨は止み

夕べの文庫の耳折したところは
心当たりが再び開かないけれど
朝、一番でしたことといえば
布団を丸裸にして笑ってやった


糊を利かせた白いシーツが
バサッ バサッ と青い空に翻るのを
ただ 聞いていたかった

乱暴な風にしばしあずけて
バサッ バサッ と青い空に翻るのを 
ただ 眺めていたかった



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