こころのいちばんやはらかいところ

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夜の散歩

日常が終わった小雨の中
すき間のある夜道を歩く
すれ違うのは健康を気遣う年配グループ
あたしよりずっと元気だ

まだ気だるいアスファルト
本を探しにブックオフまで
深夜営業に吸い込まれていく人影は絶えず
あたしもその一人になる

本に囲まれて仕事がしたい
印刷された紙の匂いが好き
募集の張り紙は門前払いの数字で苦笑い
あたしは少し皺がでてる

待っててくれたように一冊
今日は一日さがしたんだよ
「君に合いたかったんだ」と大事に抱え
あたしの今日は報われる

今夜は少し長くなる 散歩の続き

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あめいろたまねぎ

追いつかなくて泣かされた
こんちくしょうが柔らかくなるまで
さっきの言葉が目にしみる
尖った気持ちがまるくなるまで
馴染んであまくなるといい
鍋を宥める あめいろたまねぎ

泣いたのは悔しいからじゃない
たまねぎが目に沁みたからだよ

なんでもないような団欒が
部屋の隅まで温もるように拡がって
言い過ぎてごめんな、と
何もなかったように鼻歌うたう
私はひたすら背を向けて
ほっと和む あめいろたまねぎ

泣いたのは嬉しいからじゃない
たまねぎが目に沁みたからだよ

しんみりと横たわる 
あめいろたまねぎ

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たるい風が吹いている
夏の残骸がそこにある
不特定多数に愛を囁く
ありったけの言葉が並ぶ
それは何色なんだろう
透明なのか姿みえず

心無い風は無責任で
後ろめたい自慰のよう
眩しい太陽に抱かれる
窓辺の鉢植えは友達
それは明らかな素顔で
緩い耳打ちには揺れず

風が止んだある日の朝
秋のとびらの鍵が開く
降り立つ鳩は一羽だけ
カーニバルの鳩じゃない
それは手紙の配達人
唯一、招き入れられる

風の色が変わることを
はるか彼方に知らせる
見知らぬ誰かではない
遍く存在する君でもない
それは鳩だけが知る
天空の声をかすめて

凍える風を知る者だけに
示される厳しき道しるべ
かぶれた透明の街色は
上昇できぬ冷気の仕切り
それは感じることは愚か
許可書も下りないだろう

そんな風の吹く窓辺の
硝子はその姿を写さない
無色は虚しく通りすぎる
剥げたペンキの木枠
それは拘る以前の話で
敢えて上塗りをしない

風の便りが届くたびに
刻まれていく時の流れ
ささくれは模写できず
味わいはたったひとつ
それは何色なんだろう
だれにも追いつけない

たるい風は街に屯する
今ならまだ間に合うだろう
繋ぐ手は間違えることなく
似たような温度が寄り添う
それは束になって遷ろう
虚しさは季節風に乗って

聖域は常に仰々しいとは限らず
一族は目立たぬように紛れてる

風が窓を選ぶのではなく
窓が風を選ぶのだ

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月夜

満ちた月が落とした影を
深く踏んでしまったみたい
無邪気に影ふみしてるうちは
振り向きながら笑っていたね

立ち止まった影の中で
動けなくなった私がいて
影を伝ってつま先に届く想い
君のみぞおちの辺りが熱いよ

私がいっぽ横にずれて
二つの凸凹の影になる
足下を過ぎる風は茶けた夏色
これで夜に沈まないで歩けるね

何となくの振りはしてるけど
手は──
離さないでね

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曇りの朝

眩しいと思えるような朝が来るのかな
手を翳して青い空を仰ぐ日が
大事なものを抱きしめながら
自分の体温だけで生きていけるのかな

すこしふらつく足に耐えながらの雑踏
静かな夏がとおり過ぎて行く
気付いているであろう虚しさ
暮れなずむ街の無関心に甘えてばかり

遠く夜空の大気に濡れてこもる花火に
浮かれない白々しい孤独感
黒い土の上では秋の足音
安眠と記憶のない夜を貪るのを止めて

季節の変わる境界線は夜明けまえに
丘の上の風の向きが変わる
半そでの肌寒さを小さく抱く
自分の体温だけで生きていけるかな

あたしは一人で生きていけるかな

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錆び色の鐘

町外れにある鐘楼の鳴らずの鐘
水汲みの女は日課のように見上げ
寂しそうな面持でため息をつくのでした
錆び色は夕日に溶けて
それがとても切なくて

最後に鐘の音が鳴り響いたのは
何時のことだったのかも忘れそうで
今日も何も起こらなかったと嘆くのでした
風の強い夜に少しだけ
期待する自分を恥じて

塔の螺旋階段は朽ちて足場を失い
昇る足を躊躇わせますが仰ぐ天辺の
少しだけ覗く青い空は希望のようでした
黒いシルエットの鐘は
だれを待っているのか

鐘の音と共に澄み渡る日々を思い
解れた髪を結わい直し井戸に向かい
昨日の夢を忘れないようにと呟くのでした
裸足の足は土に塗れて
こころ丈夫になりたいと



町外れにある鐘楼の鳴らずの鐘
水汲みの女は日課のように見上げ
塔の屋根に「時」の鳩がとまる日に
手に持つ桶を投げ捨てて ──

錆びた鐘を
この手で打ち鳴らそうと思い
深い呼吸を一つ 吐くのです

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名のない花

いつかあなたが居なくなっても
あたしが毎日あなたを想っても
困らないような想い出をください
縁側のペンキはもう塗りなおさないけれど
今日も隣にあなたが居るように話しかけて
垣根の外の怪訝そうな人影も
そのうち慣れてくれるでしょう
あたしにもいつの日か
あなたを想う姿が縁側から消えて
あたしの庭はやっと沈黙を迎える

荒れた庭の片隅に
小さく芽吹いた名の無い花
あたしが埋めた一粒の種

私たちの白い花
それは嬉しそうに風に揺れて

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イチル ノ ノゾミ

一日に一滴の泪を落とし
海は創られたのです

誰もが聞き流すたとえ話を
あなたと私は信じている

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鳥になりたい

私は 鳥になりたい
空たかく 弧を描き
其処だけに許される
風の音を 聴きたい
自由 こころは何時だって
想い 馳せる翼を拡げて

私は 鳥になりたい
地上の掟 見下ろす
此処だけに許される
風の向きを 知りたい
束縛 肉体を離れて
想い 何処に居ても瞬時に

私は 鳥になりたい
天の近く 地をすれすれに
今だけに許される
風の道を 飛びたい
離脱 精神も肉体も滅び
想う 羽根が千切れても

私は 鳥になりたい
風に許される 鳥になりたい

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雨の終わる場所で

そのままがいいから
君の儘 がいいから

雨が終わるところまで
ひとつ傘で一緒に歩いて
今だけわたしに歩調を合わせて

この先の虹のゲートを
手を繋いで一緒にくぐって
消えてしまう前に辿り着こうね

雨がくすみを洗い落として
きれいな青い空の下で
不意をつくように抱きしめてね

在るがままを受け入れて
幾千のことばを失うくらいに
君である瞬間をためらわないで

そのままがいいから
君の儘 がいいから

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