こころのいちばんやはらかいところ

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居場所

たとえば
冬の朝、寒さに震えて無意識に
隣で丸まる私を抱き寄せ
そのまま夢の続きを見ていたら
いいな、と思う

たとえば
仕事の合間に私のことを思い出し
優先電波が瞬時に届き
浮かぶ雲間で落ち合える空なら
いいな、と思う

たとえば
日曜に世界中であなただけ朝寝坊
途中参加に付き合えと
自転車で来る約束のない午後なら
いいな、と思う

たとえば
どうしようもなく寂しい夜に訳も聞かず
胸のすき間に時を預け
ひとりとひとりで一つになれたら
いいな、と思う

たとえば
たとえば
たとえば

もしも、もしもだよ
私が死んでしまったときに
あなたのところに知らせがいったら
知らせが いったら
いいな、と思う

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其処に、此処に

積み重なる日々は
破る日めくりの裏の走り書き
キスをする日もあれば
丸めて投げた日なんか
しわくちゃになって
そのすき間に温もりが住みついて
いい味を出している

可も無く不可もなく
吸い付くように重なる日より
そこに思い出が生きて
不器用に重なっている
君が、あたしが居て
そのすき間に零れた泪のしみが
いい色を出している

時おり風の悪戯で
散らばってしまうけれども
拾い集めて また重ねて
月日の想いを刻んで
四季の全てを知る
そのすき間にそっと積った埃が
いい時間を作っている

そのすき間に温もりが住みついて
そこに、ここに

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舞い戻る街

嫌いだった
たむろする影はひしゃげていて
表情のない人々が闊歩する通り道
ただの通り道
おいしい所は高層ビルの最上階
見下ろす人の靴が見える窓がある

嫌いだった
路地を一本分け入った異国は
したたかと悲しみと排斥の裏通り
ただの裏通り
笑い声だけは聞き取れる 同じだ
眉間にしわを寄せ言い争う街角に

嫌いだった
払拭できない何かが泣いている
ビルの脇に住所を持つ浮浪者
ただの浮浪者
屋根は昼間だけ夜は何処にさすらう
眠らない街の子守唄に通りすがる

舞い戻った  ドブ
見覚えのある溝の臭いの川を越え
表も裏も歩けないあたしの通り道
ただの通り道
「お帰り」と抱かれることに苦笑う
「ただいま」と戸惑いながら呟く

舞い戻った
「ただいま」と親しみを込めて呟く

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十七夜

多くをねだっている訳ではないの
だけどそのひとつが
たったひとつが
あたしのすべて

きみの声
雲に見え隠れする月のもと
ほんとうに
時が止まればいいのにと

ああ、今を取り巻くすべてが憎い

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いま、

ワンドロップのところに居るよ
なんとなく居心地が良くて
下ろしたての長袖シャツを
二つ折りで袖まくりしてる

少しだけ俯いて耳を澄ます
こころは開けたまま目を閉じ
天空を奔る声を拾っている
風の道に立って四方八方

髪を切ろうと思っていたけど
気まぐれは雲が流れたとき
影が薄れた隙にさらわれた
ほんとうは迷っていたこと

両手の塞がった親子連れ
笑い声のバリケードだから
そのまま歩調をあわせて
緩やかな坂道は陰日なた

ワンドロップのところに居るよ
なんとなく居心地が良くて
下ろしたての長袖シャツを
二つ折りで腕まくりしてる

0

風鈴

軒先の風鈴を揺らした風は
どこへ行ったのかな
チリン…と鳴らして
路地を抜けた

夏が終わる知らせは優しく
時にたたずむ私に囁く
チリン…と鳴らして
笑い振り向いた

その音色をもう一度聴きたい
風を待っていたけど
チリン…と記憶だけ
鼓膜に残して

チリン チリン…
時にたたずむ

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Unlucky day's

運悪く空っぽを抱いてしまった日は
端からみたらさぞかし無口で

誰にも明かせないけれども
せめて宛名の無いメールを
罪には問われないことを祈り
夜空に打ち上げてみようか
映像だけの火花
あなたには見えていることを
私は知っている

こころはいつも正直なのに
たった20センチくらいの間
常識にろ過された想いは嚥下
たわいも無い言葉がカラ回る
裸のままの心が
あなたには見えていることを
私は知っている

理由が必要ならばいくらでも
引き合う魂に引き返す道がなく
境界線はオトナが引いたもの
繕いのない想いは純粋だと
そこに佇む童子が
あなたには見えていることを
私も知っている

好きでも嫌いでもない今だけの
最強の白い余白を塗りつぶして
どうしようもなくダメな女になり
残念なアタシを眺めてもらおうか
それは強がりだと
あなたには分かっていることを
私も知っている

運悪く空っぽを抱いてしまった日は
端からみたらさぞかし無口で

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路肩の花

誰も気にとめない路肩の花に
君は駆け寄り 喜び愛でる
そんな日々が訪れるなんて
まだまだ捨てたもんじゃない

ひとり寂しい夜には月を見上げ
君もきっと見てるとつぶやく
そんな昨日が積み重なるから
もうすこし頑張ろうと思うんだ

小さな出来事に光りをあてて
君は恥ずかしそうにうつむく
そんな今日を生きられるから
一人じゃない、と足を踏み出す

風の悪戯に帽子をとばされ
君は無邪気に追いかける
そんな明日を思い浮かべて
ぼくは 穏やかに満ちていく



誰も気にとめない路肩の花に
君は駆け寄り 喜び愛でる

そんな明日を思い浮かべて
ぼくは 穏やかに満ちていく

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セカイ ノ ハテ

いちどは紐解く「世界の果て」
それは何処に或るのだろう
いつ辿りつくのだろう
いつ其処をそれとする

今もなお探し続ける旅人が
無かったことを書き記して
郵便ポストに投函する
宛名のない手紙は虚で
時間外には出鱈目に配達される
出しそびれたはずの恋文も
見知らぬ人が開封してしまう

基板の迷路から抜け出して
闇に放たれた電波を掴め
サーチライトに捕まるな
囚人の合言葉が発端
自由はいつだって広げた手に
そんな不自由を抱えたまま
空から舞い落ちる羽根を拾う

液晶の空は得意の標識が
ひしめくように浮かび上がる
世界の果てへの道程は
制限速度は守られず
渋滞する道には煙草の吸殻
時を圧縮した眺めは綺麗か
滑った口はタイヤの跡を残して

ミライの踵の後ろに何が見える?
Oops ! 下がるなよ

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何処まで行こう

足音が聞こえた季節だから
散歩でもしようかな
駐車場のフェンスの影が
気弱そうに道を飾る
真夏には日よけにもならなくて
うだる暑さの八つ当たりに
踏ませてもらったバス通り
今日は何処まで行こう

ねぇ、空が高くなったよと
伝えようとしたけれど
季節風はあたしより先に
君の瞳を奪ってしまう
窓越しに不細工な雲をみつけて
まるであいつみたいだな、と
思い出し笑いをしてくれるかな
今日は何処まで行こう

どこが似ているのかって
意地っ張りは横綱級
心に落とした影を踏んで
こんちくしょう、と思うとこ
君の持ってる時間の中に参加して
すすんでつまづき駄々をこね
退屈しないでしょ?と押付ける
今日は何処まで行こう

”色褪せない心”でいないと
文字盤のない時計になる
なにも書かずに閉じる日記は
もう要らないから話続けて
夢に鈍感だった日々の行進のなか
ひとすじの風に背中を押され
ちゃんと自分の足で歩けよ、と
だけど今だけおんぶして!

いちど言ってみたかっただけだよ
今日は何処まで行こう

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例えば生きる辛さについて

存在のない静かな時間
居るけれどもいないすき間
手を伸ばしても届かない在り処
沈黙は正しく 間を繋ぐおしゃべりには
少しだけ罪の無い優しさが混ざっている
夢は夢、今は今
思い出に質問するけれど答えは無く
「雨が近い」と 赤が混ざった夜空が答える
哀しみと肌の温もりのようなものが
明日を創るのだと
指がそういう文字を書く
気付きは瞬きの瞬間に過ぎることを
知っているのは睫毛だけ
だから本当は運命に目をつぶってはいけない
手の平に「好き」と書いてみたけれど
不快な感触が身体に走るのは
何故なんだろう
「嫌い」と書いても同じなのは
何故なんだろう
鈍感なふりをしていても助けられず
粉々に微粉末のようになった硝子は
何かを傷つけることもなく
指紋の間に忘れられたように収まって
意味も無く静かに笑っている
次に何になれるのかも当てはなく
光が届いた時にだけ小さく輝くけれど
あなたが一粒と呼んでくれなければ
誰にも気付かれない

悲しいね
きれいだけれど 悲しいね

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面倒くせぇ!が、やってきた

今日は何時もより何割増しか無口になった
ハローワークは蒸していて
無職のブースは汗の匂いがした

ベビーカーを押しながらの若い母も
高校中退したであろう幼い茶髪も世話になるのか
昔ながらの描いた眉毛の年配の女性も
スーツを着たら窓を背に座ってそうな男性も
もちろんあたしのような中途半端なおばちゃんも
何か理由を持っていさげな元オフィスの花だとか
腕まくりをしたリーマンだった彼も
ずっとあぶれてる慣れた人びと
今日は異国の人も多かった
月曜日は職員も昼ごはんは抜きで
それでも丁寧で「ありがとう」

区役所で階段を登る気力も無くなって
たかだか3階までだけどエレベーターを使うことにした
若夫婦と小さい女の子が一緒に乗ったけど
女の子がボタンを押したがって駄々をこねた
お父さんが「いいよ」というと壁の側面のボタンを
片っ端から押していったので3階まで百年かかった
あたしは顔で笑いながら泣いた
自分のために何か励まそうと
口にしたら倒れそうなので
今日は忘れることにして誤魔化した
それでも事務的で「ありがとう」

遅い昼食をとったあとに薬を貰いに病院へ
とっても気さくな先生でご年配方には自分が迎えに出る
しくじったのは今日は月曜日だということを
さっきの忘却のファイルに押し込んだのだ
あたしはイライラしながらグーグー眠ったので
早く気付けばいいのに3日間も待たされてしまった
やっと呼ばれて血圧を計りながら
先生とフランクに談笑して2分
外に出たらおとといの夕方じゃ無く
たぶんさっき秋になったんだと思った
それでも処方してくれて「ありがとう」

今日は仕方ないことだけを会話で繋いだ
昨日、落ちてる自分を
面倒くさくて拾わなかった



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9月の庭

芝生がひんやりしてきたよ
足の裏の感触も心なしか優しい
夕方になると風向きが変わるから
長袖のカーディガンを羽織って椅子に揺れる

きみの絵葉書を栞にした本
夏の間は閉じたままだったけれど
少しずつ切ない夜が増えてくるから
夢紀行を進めておかないと季節に置き去り

暖炉に火を入れるころには
庭の木々は赤や黄色の葉を落とし
あたしの溜め息を上から覆い隠してしまう
落ち葉が積っている庭の木戸を開けたときに
急いでそれを踏まないように気をつけてね
待ち焦がれた紅い色で少しうず高く
そうっとやってきて驚かせて

そんなことを思い浮かべて
一人で微笑っている私、どうかしてる
ううん、きみはずっと心の中で生きていて
私がいつか追いつくまで其処を動かないでいて

私はずっとお婆さんになって
きみは驚いた顔をするのかしらね
風にそよぐ力ない髪は白くなっていても
この手をみて「相変わらず手は年をとらないね」と

──微笑ってくれるのかしらね

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水のささやき

深い苔色に染まってゆく湖面
乾いた小舟を滑らせて
内側の波に漕ぐオール
ギィギィとぎこちなく繰り返す音

不安に揺れそうな日は土から離れ
風は水面を走り波立て
水は舟底をまるく叩く
ポコンポコンと規則正しく不規則に

誰かが森を訪れた知らせが届く
飛び立つ鳥は一斉に
静寂はその身を隠す
ザワザワと騒ぐ木々が黙るまで

此処まで辿り着くのはもう少し先
鎮める時間はまだある
湖底の囁きに耳を傾け
うつらうつらと小さな眠りに委ねる

肌寒さを少しおぼえて身を起こし
薄く立ち込める靄に紛れ
小石を踏んで近づく足音
ザクッザクッと今を呼び戻す合図

想いは押し返す波のように留まり
季節ごとに変わる水温
それをそっと手にすくい
トクトクと脈打つ手首を濡らし宥める

森が漆黒にのまれる前に
全てを理解してしまう前に
濡れたオールは滑らかに岸辺を目指し

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