こころのいちばんやはらかいところ

2

むかし読んだ本


むかし読んだ本を開いた
栞紐は言われたまま其処にいて
時間がたっても耳折りの跡は消えず
ふるえる指先が文字をなぞっていく


宿無しを抱いた雨の夜
音のない真っ直ぐな雫を数えて
癒えることのない傷に唇を這わせた
迎えにきた風はカーテンを揺らして

目覚めたときの虚しさを呑みこみ
空っぽになったこころに落とした

騙し続けた日々にそれを
救いを求めるような手でめくり
変わらないと信じた物語を抱きしめ
幾つもの夜を開き結びて夢みた明日
 

むかし読んだ本を開いた
栞紐は言われたまま其処にいて
時間がたっても耳折りの跡は消えず
懐かしさと旅するごとに遠のく過去


スポンサーサイト

0

雨ふる窓辺


雨ふる窓辺に寄りかかって
解いた心 透き通った私は
どんな顔をしているのかな
きみを想っているときって
どんな顔をしているのかな

きみが消えたら嫌だから
結局 瞳は閉じたまま

はずかしいからもういいわ

こんなふうに寄りそって
きみのこころに寄りそって

0

リコンハクショ


諦めもするし慣れもする
我慢も辛抱も成長の糧だと老人なら言う
悪いことばかりじゃなかった
そう、いい事だってあったんだ
呼び出すと立ちはだかる壁は高く

普段は黙りこくっても
大事な会話さえできていたらね
いちど逃げると次も行けちゃう
そんなことばっかり覚えて
信頼を欠いたことを黙殺するなんて

思いやるこころが面倒になって
不機嫌や不満は当たり前の上席に座った
愛は努力の賜だと冗談でも言ってはいけない
暮らしのなかで築き上げた情や時間が
沈黙のなかで悲鳴をあげていた

見てみぬ振りだけは上達していく
過去に描いた未来予想図が思い出せない
連れ立って歩く老夫婦がイメージできない
わたしはいつしかスケッチブックを閉じ
薄情でしたたかな紙を隠し持つようになった

年をとれば人間が丸くなるって嘘だよ 

灰になって明かされる嘘の残りかす
誰も気づかず これで良かれと
それを言うのはいったい誰なんだろう


どこの家庭でも一つや二つはある話なのだ
これといって言うほどのことでもないのだ
こころで泣いていたとしても
あっけらかんしか出てこないことが問題なのだ
あなたはずっと前に自分を諦めていたのだ

憎んだり恨んでいるうちはまだ良かったのだ
しょげてしまう首とため息が漏れる口があったのだ
ありがとうが消えてしまって
そのうち鼓膜にはこころが囁かなくなったのだ
それがわたしの抱えてしまった問題だったのだ

わたしはもっと前に自分に諦めていたのだ



2

プライベート・ビジョン


何か根拠があったのか?そのビジョン
骨なしの軟い憧れ

折れる骨なら要らぬ
無い夢なら見ぬが花
無限と名付けたこの世界で
違わず永遠を信じよ感じよ

笑う風は肌に小痒いか?
嘆く雨は胸に沁みるか?
絶望の淵の心地よい言葉に惹かれるか?
希望の前の朽ちた試練の橋を渡れるか?

何か根拠があったのか?そのビジョン
骨なしの軟い憧れ

違うさ!
語らぬ気骨の内側で
懲りることを覚えず
已むことを知らず

頑なな自分を呪い
頑なな自分を愛し

2

路線電車


赤い電車の沿線に居場所を移し
かれこれ20年が経とうとして
変わることの無い姿が妙に嬉しかったり

本当のこというとね
昔は何となく嫌いだった
訳とかは訊かないで
本当に何となくだから

履歴書にキミの路線を書くたびに
長く居すぎたな、って思う
ため息をつくとそれを消すように
いつも赤い車両を揺らし
ガタゴトと笑いながら通り過ぎる

窓の眺めはいつも
汚れた町ばかりを映す
庶民の足となって
疲れた身体を運ぶ
誰かの隙間を走る赤い電車
乗るなら各駅停車が好きだよ
眺めるなら駅の近く

最近はガード下がお気に入りで
レールが唸ると下で待っている
ガランゴロンと腹のほうで
愚痴を言っているような気がして
なんだキミもか、と笑ってしまうんだ

抜けるような青い空に
白い雲が寝そべって
キミはお似合いのような顔をして
得意げに走り過ぎる
どんよりねずみ色の空に
斜めの雨が降る日も
キミはあたしの注意を引くように
得意げに走り過ぎる

傘を上げてキミを眺めて──

ちょっとだけ安心するんだ
長く居すぎたな、と笑う
変わることの無い姿が妙に嬉しかったり

該当の記事は見つかりませんでした。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。