こころのいちばんやはらかいところ

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ある朝の風景


朝日は暮らしの稜線の上あたり
眩しくて俯きながら歩いている
ダイオードの信号がピヨピヨ鳴く
あと何度こうして十字路を渡ったら
白い息が空に舞うのだろう

老いた人が杖をつきながら散歩する
リハビリの背中は諦めない心だと
誰の邪魔にもならないように
彼自身の邪魔にもならないように
願う朝をそっと追い越す

ひと雨ごとに降りてくる柔らかな光
長袖のシャツを一つだけ折って
手首に風が少しだけ遊ぶように
まだ硬い柿の実はいつ染まるんだろう
日々の付箋を見つけた

変わらない毎日を受け入れながら
変わらない自分を眺めながら
ひとつとして同じではない朝を
覚えのない幾つもの夜を同じ数だけ
無常である時のうえに立ち

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雑草はまだ青い


わたしは
『時』にどのように扱われたいのか尋ねた
何もしなくていい
今はここに在るだけでいい、と
やっとの思いで呟いた
やわらかな無関心と
独り言を呟いても
声が聴こえないくらいの安心感

探さなくても大丈夫
戻ってくるから

少し散歩がしたいんだ

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深刻な悩み

大人になりたいですね。
せめて年相応。

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急がなくてもいい、と言って


迷子になったヒトミは
瞼を閉じてきみを探す
街の雑踏に待ちぼうけの駅の椅子に

すれ違いに抱えた頭
風を遊ばせる長い髪
きみの手が撫でるのを夢見る髪

冬の曇った窓硝子に
書けなかった名前に
運命の背中を見た五指の跡が泣く

約束事のないまま
絡もうとする小指
迷う指先 探す指先 戸惑う指

両手のひらに乗せた夢
そっと閉じる夜は長く
震えるこころを強く抱きしめた

憧れた腕が抱えきれずに
時おり溢す夢のかけらを
拾っては嬉しそうに眺めながら

足元を愉快に跳ね回り
爪先を足首を擽るから
裸足の少女は無邪気に微笑って

想いを握り締めた手は
ずっとポケットの中で
永遠を添い遂げるよう眠り続けた

 
急がなくてもいいと言って
今すぐ走って来いと言って
全てを抱きしめるって嘘をついて

全てを抱きしめるって嘘をついて

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個人


わたしと言う存在に
何の意味があると言うのか
誰も知らなくていい
私も知りたくないから

生きのびるために
生まれた人格にも似た
それらは嘘をついたりはしないけれど
ひとつのことしか知らない



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もしも彼女が眠ったら


存在を知る手がかりが
誰かを想うことならば
誰に想いを馳せようか
身体の飢えなら誰でもよかった
鈍感を相手にのぼりつめる振り
汚れてく嘘を眺める勇気もなく

(知らない人についていっちゃだめ)

わたしの後ろに隠れて怯え
スカートの裾を握る少女の
不安で握り締めた拳を解き
わたしは彼女に親身になる


彼女が眠った月夜の晩
わたしがいなくなるとき掴まえていて
「おまえは中にいる」と言って
もどかしい言葉が空回るとき
ただ、
側にいたいと願うとき
体温が沁みわたって
生きていると感じたいとき
今だけは
ひとりじゃないと信じさせて

もしも彼女が眠ったら

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月と雨


洗濯物を干し終えて
ひといき吐いたら雨の音
まだ誰も気づいてなくても
囁きでも来たのがわかる
夜風と話す白いシャツ
話しを折っても
さよなら言わせて

西の空に欠けた月
まだ何も知らない私のようだと
それとも今夜は泣きたくて
滲んだそれは少し赤

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晩夏


白いサブリナシューズに
丸めた新聞紙を詰めた
靴を脱いで歩くほど
もう若くはなくなっていて

今日の雨に足は溺れて
ブカブカと靴はぐずっていた

踏んだり蹴ったりの日に
踵が折れたサンダルを
手にブラブラさせた青い夏
こんちくしょう!と叫んだ道端
おどけたクラクションに毒づいて
あたしは夜と戦っていた
無傷を信じて疑わない
痛々しいこころの硬さ
居たことすら忘れたあたし

怖いもの知らずが懐かしく
出来ない自分が可笑しかった

やれやれ、と新聞紙を丸めては
靴に詰めているここに居た
角が丸くなった自分が居た
ちょっと好きなあたしが居た





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誰しも心の底のくぼみに
泪の水たまりを持っていて
その人肌が絶えないように
そっと抱きしめている

子どものころから少しずつ
いろんな理由で泪を流し
大人になると呑みこむから
どんどん増えてゆく

何も無かったかのように
時に、忘れて日々を過ごし
または思い出さないように
傍に誰かを置いて

街が夜の帳に覆われて
人混みのなかで不意に襲う
喧騒の波に追いやられて佇む
こみ上げるやるせなさ

本当はみな気付いている
だけど決して口にしない
それでも時を守ることが
生きる約束だから

あなたはあたたかいね
このまま少しの間でいいから
抱きしめてくれる?
そんなことを言ってしまいそうな夜だってある
そしてまた それを呑みこむ

── そして そっと泣く


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少し丸い音


夜にはやっと大地が眠る
雲の多い月夜の晩に
洗い髪を夜風に遊ばせ
椅子を揺らして交わした会話
幸せだった私を思う

少し丸い音が欲しいな

カーテン開けても薄暗く
今度は私が朝を待つ
どんなに今が切なくも
カチッと鍵を閉めながら
留守番させる私の心

丸い音がいいな
まぁるいおとが
涙ぐんだこころが
寝息をたてるような









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