こころのいちばんやはらかいところ

0

お伽話


抜け出そうともがけばもがくほど
身体は闇に沈んでいく
抉り取ったこころを握り締めて
世界の闇に私は立っていた

群れから離れてどのくらい経つのだろう
掟の鞭はいつも撓って
空をヒュウヒュウ鳴らしていた
世界を斬る音は風のように泣いた

錆び付いた鐘が動いたような気がした
崩れ落ちそうな柱に吊るされた
終わりを捜す巡礼者の首のようで
世界が泣き叫ぶことに怯えた

慟哭にも似た熱い塊を嚥下したのだ
気がついたら腸を失っていた
もう何も食べなくてもいいのだ
世界は物語を食べつくしていた

とうの昔に死んでたことを受け入れられず
漆黒の闇は何度も塗り直された
昨日あげた悲鳴は記帳されず
世界は新たな嘆きを強いる
 
夜ごとお伽は語られる
架空をいいことに
日に日に残酷になって

スポンサーサイト

0

小さな風景


わたしの狭い暮らしのなかに
小さな風景がある
幼いまばたきのむこうで輝く
小さな風景がある

雑木林に守られた小さな川に
懐かしい音がある
そこを愛する人々に守られた
やさしい音がする


川の上を風が奔った

小さな落ち葉が雪のようにさらさらと舞い
わたしはちょっと胸が高鳴った
やわらかい陽ざしは
木の遥か上で揺れていた
初冬の梢で鳥が鳴く

澄んだ川面にカルガモのつがいが遊び戯れ
不意に呼び出された優しい気持ち
心地よいせせらぎが
こころの波に耳打ちして
小さな風景が沁みた

川の上を風が奔った



2

"nora"


夜の大地に爪を立てた
両手で土を掘っていた

凍える星を見つめてた
確か吐息は生きていた
夢を抱きしめ墜落していた
永遠が瞬きのなかに沈んでいく
放心状態は長く還る道はすでになく
胸にぽっかり穴が開いたのではなく
空白のなかに私はいた

私を守るべきの記憶が
意外にも心と体を襲い
わなわなと震えているだけだった
彼女はそんな私に手を添えた
私達には共通の理由が必要だった
私は文字で"nora"と書いた
彼女と私は一つになった

言いそびれたことを思うと
彼女はそれを手帳に書いた
一緒に眺める風景と
泣き笑いから言葉を繋いだ
彼女の助言は素直に聞いた

サイレンは万里の向こうで鳴っていた
誰も私の耳元で教える人は居なかった
彼女は死に緩慢になり
私は生に鈍感になった

ときどき彼女は虚勢を張り
私は黙ることが多くなった
信頼は依存に寝返り
寂しさが満ちる場所が出来
二人がずれた事に気づいた

私は彼女から流れ出ていた
片隅が徐に語りだした
耳に手を添え音を拾うと
墓の前まで続いていた
線のブレる記憶だった
私に纏わる興味だった
迷わなかった
知りたかった
爪は黒い土に塗れた


暴かれるのを待っていた
同意を求める眼差しがあった
彼女の手は小さく動いて
微笑みながら振らずに下した

手向けられた花束は枯れていた

私は、
天を仰いで瞳を閉じた

0

残照


お疲れのようだけれど
家路を急ぐ人々の顔はいい
うたがうことも
うたがわれることもない
ため息や喧嘩もあってこその家族が
当たり前と思う団欒に
不満を抱きながら
当たり前を求めて還っていく


在りかたなんてどうでもいいんだ

うそをついたぶんだけ
ひとはひとを疑う
そんなことは教えていない
そんなことは覚えなくていい



0

うわさ


わたしはわたしから噂になった
それは人々の口のなかに住んでいた
本当は誰のことかは分からない

わたしはここにいるけれど
決して耳には届かず
75日も経てば消える話は
数週間でずっと前のことのように
そんなわたしはいつも透明
眺めるわたしは
生きていることに鈍感になった

うわさは一人歩きをして
知らないところで
いつしか違う話になっていた

噂の主は待たずして消えた
眺めるわたしは
そもそも疑う存在をつねっていた

わたしはここにいる
あれは誰だろう

わたしは誰だろう
ナイフを突き立てれば血も流れる
こころが震えれば泪もながす
冷えた手で自分を抱くと
体温だって伝わってくる
それすら気のせいかと

わたしに耳を覆った
わたしは誰だろう…

そうだ
ノラに訊けばいい

0

Cotton


わたしはわたしに還りたい
ただ、自分に還りたい

涙があたたかいことを
その温もりをいつも湛えて
それがわたしを運ぶことを
自分をちいさく抱きしめて
こどものように眠りにつく
指先だけが覚えている
馴染んで頼りないシーツの記憶

わたしはわたしに還りたい
ただ、自分に還りたい

該当の記事は見つかりませんでした。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。