こころのいちばんやはらかいところ

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にわか雪


ページを捲くる静かな音と
ロフトから降る猫のいびきと

陽だまりの場所で背中を温め
自分を影にして文庫を読む
少しずつ身体を縮めて
ひざ掛けから果てや毛布に
気づくと外は鈍色の空
長針が三周も回っているうちに
床がしんと静まり返る
寒い寒いと干したシャツが文句を言った
窓を開けたら一気に手を引こう

視界を過ぎるのは──

気まぐれのような白い雪
なんだか気の無い返事のような
腕を抱えて目を凝らす
遠くの遠くの坂道に
親子連れの後ろ姿
ピョンピョン跳ねる小さな影
似たような風景を思い出し
そんな過去にすこし温もる
さぁて、『今』に帰ろ

顔を上げた猫を騙して
またまた本に目を落とす
ページを捲くる静かな音と
ロフトから降る猫のいびきと






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あの日あのとき


キツく絞った雑巾のような感情
手放す明日はゴミ箱を過ぎて
いつしか家具の隙間に消えた
そのとき直ぐに片付けないと
その後はわざとそうしない
気づかないフリは
自分に対する最大の思いやりだと
願うように思った

時は記憶喪失を装い
わたしもそれに倣う
忘れはしないが忘れた頃に
芯のある綿埃を見つけ
今日までの過去であること
意識からさほど遠くない
眠りのようなわたしの現実
頼りない時を払いのけて

あの日
あのとき

痞えたものを呑みこむように
咽にぐっと力がこもる

あの日
あのとき

爪跡がつくほど握り締めて
感覚のない日々を逃がした

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泣き色の空


いちばん低いところから
いま決めた日課のように
今日に手を振る空を見上げた
西に浮かぶ雲の画用紙

なんだかさ、
微笑む仕草を止めたら
泣いてしまうような色
悲しいとは違うけど
泣いてもワルクナイ色

夕暮から夜への
グラデーションのちょうど真ん中
突っ立ったままの電信柱
町をかたどる暮しの稜線
急かすように叩かれる肩

だんだん無口の色になる
どんどん無口の色になる

あたしにお構いなしで
微笑っていたのは
泣き色の空








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青い空が恋しくて



君を待つ夜は
ただの過去になっていく
空箱を振ると
シリカゲルだけが答える
いつもどおり
変らないことを確かめる

きみがいるだけで幸せだった日々に想いを馳せた

君のいない朝に
夢でも会えなかった夜を思う
沈黙と静寂は
窓を叩く朝の陽ざしの中
ダンスを踊る
悲しみを振り解くように

きみは君の胸で泣き
わたしは私の胸で泣く

ただ
青い空が恋しくて
ただ
青い空が恋しくて

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風の丘


風の丘にわたしはいるのでしょうか
それを確かめに行くのでしょうか
久しぶりの坂道は衰えた脚を笑います
かといって拒んでいる様子もなく
さも、待つことを楽しみに変えたように
でも、ご無沙汰に少しだけ剥れるように

あの頃のわたしは伏せ目がちのこころで
大好きなのにそれを抱けない自分であって
ポケットが住処の手で引き算しながら
血のめぐりの悪くなった指先で星を数えた
朝が来るまえに 朝が来るまえに

望んでいたのは宥める暮らしではなく
しなかったことを後悔するなら
したことを頷く私でいたいから
わたしのなかの少女は
いまでも真っ直ぐわたしを見るでしょう

行き止まりのアスファルト
枯れ草は
意外にも頼りない音でわたしを迎えた

風の丘にわたしはいるのでしょうか
振り向くシルエットは微笑っていますか?
わたしは私に
  
── 間に合いましたか?


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