こころのいちばんやはらかいところ

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アイトマートフの木


まだ見ぬ景色に根を走らせよう
わたしを遠くまで連れていってほしい
わたしはわたしを破り伸びていく

無傷の空に近しいものになりたい
制空権を持つものたちの目印になりたい
孤独な風の聞き上手になりたい

遠くへ旅立つ老人には思い出話をしよう
約束のわたしを解放してくれないか?
あなたさえ忘れた秘密の存在

少年の宝箱には裸根のすき間を与えよう
この枝では大人になると見えなくなるもの
しがみついて登っておいで

泣いたあなたをどうすることも出来ず
悲しみを知った梢を震わせてみたものの
わたしは銀河のでくのぼう
 

冬には眠る芽を守り 春には天地を賑わせて
夏には大気と交感し 秋には凡てお返しする

ぶっ足ったまま生きるを証す
わたしはただの名もない木

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music


音が鼓膜の向こうに行きたがる
私はそれを内側で聴き入り
こころのなかの泉に落とす
水面に現れる紋は世界になり
誰にでもなり何処までも往く
乱暴に、または丁寧に
四方八方に飛び散った飛沫
それらは言葉になりたがる
ときにはサボって水浴びだけをし
私は裸のまま世界を歩こうとする

誰にもなれず何処にも行かれない

がっかりした私は
微振動し続ける水の上に在る
七色に輝く粒子などを拾い集めて
やがて消え往くものを記す


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日なたを歩く


舗装したての柔かいアスファルト
冬の日なたでぬくぬくしてる
心なしか靴底も喜んでる
そうだ今日は忘れない日になる

ただ歩いているのと違うんだ
この道はやがて無表情な色に変るだろう
そんなことでも切なさ感じる
笑っちゃうでしょ?

そんなの知るか!と言われたって
こみ上げる眩しさに浸ってる
向こうから歩いてくる人
悪いけど今日は道を譲らないよ

ただ歩いているのと違うんだ
足跡が日陰に盗まれないように歩いてる
そんなことでも用心している
笑っちゃうでしょ?


悪いけど今日は道を譲らないよ
日なたを歩いているんだ いま
あんたがどきなさい


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うたはいつもそこにあった


わたしが風のこどもだったとき
うたはいつもそこにあった
制止の指を立てられることなく
ハミングのような軽やかさで

初めて孤独について考えたのは
見守る眼差しが盲目なのだと知った時
わたしは言いつけを守らなかったし
じぶんのなかの善悪は
指を吸うまえ記憶の海で学習した
柔らかい芽は深刻な傷さえ
遺伝子のように受け入れ
廻りのなかで事実だけが残った

うたはいつもそこにあった

悲しいときは声をあげて泣き
愛というものを確かめようとした
わたしは疑うことを知らなかったし
だけど怒りにそれはなく
彼らはそこに根付く自分自身を憎んだ
わたしは彼らから剥がれていく
そして彼らが訂正したとき
慌てて走ってくる愛に縋った

うたはいつもそこにあったさ

楽しいときも嬉しいときもうたった
だけどそんなときは
笑った誰かに全部あげてしまうので
見る見るうちに手ぶらになった

笑いながらバイバイしたのに
淋しそうに何度も振り向いた

うたはいつもそこにあったんだけど

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夜明け前


君よ
まだ 夢のなかの君よ
月は
この夜いちばんに静寂し
朝待つ者たちを暫らく無口にす
風は
真空のはざ間で産声を上げ
昨日は記憶に生まれ変わる

君よ
まだ 夢のなかの君よ
星は
無名の浪漫とともに在り
彼らの刹那は地上の永劫と為る
愛は
揺るぎなさを追い求め
善悪の手から零れ落ちて往く


まだ 夢のなかの君よ
私は
目覚めのうたを幾つか知る
だけどそれらを歌いはしない
君よ
朝が美しいのは瞬きする間
今日を手垢だらけにしようとするまでの

君よ
私は

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