こころのいちばんやはらかいところ

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水のささやき

深い苔色に染まってゆく湖面
乾いた小舟を滑らせて
内側の波に漕ぐオール
ギィギィとぎこちなく繰り返す音

不安に揺れそうな日は土から離れ
風は水面を走り波立て
水は舟底をまるく叩く
ポコンポコンと規則正しく不規則に

誰かが森を訪れた知らせが届く
飛び立つ鳥は一斉に
静寂はその身を隠す
ザワザワと騒ぐ木々が黙るまで

此処まで辿り着くのはもう少し先
鎮める時間はまだある
湖底の囁きに耳を傾け
うつらうつらと小さな眠りに委ねる

肌寒さを少しおぼえて身を起こし
薄く立ち込める靄に紛れ
小石を踏んで近づく足音
ザクッザクッと今を呼び戻す合図

想いは押し返す波のように留まり
季節ごとに変わる水温
それをそっと手にすくい
トクトクと脈打つ手首を濡らし宥める

森が漆黒にのまれる前に
全てを理解してしまう前に
濡れたオールは滑らかに岸辺を目指し

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