こころのいちばんやはらかいところ

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サンクスギビングの夜に

読みかけのおとぎ話を途中で閉じて
雨の中飛び出したのは傘を打つ音がしたから
キミが戸口に立ったような気がしたのかな
煙るような水墨のような景色にただ、立ち尽くした

雨あがりの空に大きな虹が掛かって
僕は立ち上がり背伸びをしながら二歩三歩
あの日の魔法が掛かるかな、と振り向いた
過去は危ういホログラムのように手を透過して消えた

夏の終わり風の向きが変わったころ
祭りが終わったその夜の町外れの木の下に
一緒に埋めた思い出を掘り起こそうか
目を瞑った僕の網膜に音のない花火が散ってゆく

まだ誰も踏まない雪の上を追いかけた
四方八方に耳を澄ましキミの足音を逃すまいと
真っ白な世界は地図が読めず迷子になる
僕はキミの物語から抜け出してしまったんだね

僕の肩にキミのしるしのサクラひとひら
変化の無い毎日に少しずつ聴こえていた鼓動
ずっと前のことなのに錆色のケロイドが
深呼吸をするたびに越えなかった境界線で時々、疼く

「サンクスギビングの夜に逢いましょう」
僕はたどりつけないまま本を閉じた
あれから何度目かの雨季を真面目に過ごして
栞を挟んだ気になるところも本棚で眠っている

「サンクスギビングの夜に いつか読んでね」
「サンクスギビングの夜に いつか喚んでね」



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